予防・治療・ケアそして自立生活を支える福祉用具
-福祉用具の選定とは-
社会福祉法人 白寿会
在宅部 三浦 浩史
【介護支援専門員・理学療法士】
医療保険・介護保険の法改正により、専門職には「目的・目標・適応・期間」をさらに明確にし、自立支援としての本来の時系列適合を目指すものとなりました。福祉用具は、介護保険上のみで利用するものではなく、生活向上・予防・治療・ケアのどのフェーズでも選定すべきであり、同時に心身機能・活動の改善を行うことができるものです。今こそ、各専門職が時系列適合に責任を持って利用者へ提示するには、どうしたらいいか検討します。
【はじめに】
現在、利用者の生活支援・権利擁護という視点でケースワーク・アドボカシーを実行しようと日々検討している介護支援専門員を多く見かけます。ただ、近年多くの介護支援専門員は、記録に追われ、本来のケースワーク中心型業務から記録充実型業務へ移行しつつあります。これは、「適正化」と言う法整備の中、すべての記録が必要で記録による判断が重要であるような風潮があります。確かにケアマネジメントの記録を残し、経過分析や担当変更時のスムーズな移行など重要性は高い。ただ、そのためにケースワーク・アセスメントを疎かにはできません。この一端として、福祉用具のケアマネジメント(ニーズ・選定・適合・モニタリング)があり、自立支援の重要な要素と考えます。
【内容】
1:介護保険法施行における福祉用具供給の変化
2:平成18年介護保険法改正による福祉用具貸与の変化
平成18年4月以降に、貸与件数・貸与事業者の著名な減少があります。これは、制度改正の影響なのか、適正なアセスメントに伴う貸与であったのでしょうか?
3:福祉用具とは
心身の機能が低下し日常生活を営むのに支障のある老人(以下単に「老人」という。)
又は心身障害者の日常生活上の便宜を図るための用具及びこれらの者の機能訓練のための用具並びに補装具をいう。
4:介護支援専門員に必要な福祉用具におけるケアマネジメント
【問題】なぜ、介護保険では「貸与」「購入」なのでしょうか?
【福祉用具の選定基準】
選定:「理由(目的)」「タイミング」「期間」「効果予測」「モニタリング」が必要
- 理由・目的(心身構造・機能及び活動の何が生活課題であるのか?)
<例>(機能の補填のため)
心身構造:下肢欠損による歩行能力に課題があり、義足を使用し、歩行能力を改善する。
心身機能:背中を伸ばす筋力が弱く、立位・歩行時に体を支持できず、立位・歩行が困難であるため、歩行器(両手で体を支持)を使用し、立位・歩行能力改善する。 - タイミング(何時必要か?)
疾患治療・障害改善の時・生活課題発生の可能性が高い(予防)
・生活課題が発生した時 など - 期間(何時まで必要か?)
生活課題が改善するまでが原則 - 効果予測(どうなってほしいのか?)
生活課題を福祉用具の機能で補填すると、本人の生活がどう変わるのか! - 各制度利用と費用
介護保険・障害者自立支援法・健康保険・地域生活支援事業・日常生活用具給付事業・自治体独自制度・自費などを検討する。
これらを検討し、以下の介護保険制度利用の選定基準を確認する。
【モニタリング】
再アセスメントする場合、上記①~⑤を確認する。
【適合。そして、専門家との役割】
福祉用具は、必ず目的と適応を持っているため、利用者の生活課題から福祉用具選定はできると考えられます。選定はできても、サイズなど微調整が必要になる場合が多く、適合は、重要な要素となる。介護支援専門員が、福祉用具専門員やPT/OTなどの専門家とともに担当者会議・適合を行い、関係各者が福祉用具利用支援を行うことにより福祉用具の持つ機能補填・代償機能を最大限に活かせます。これにより、生活課題の改善を行うことが自立支援の重要な要素であることは言うまでもありません。専門家は、福祉用具やリハビリの専門家であるが、利用者個人の生活支援の専門家ではなく、日常生活を細部まで知りえないことが多い。そのためにも、生活支援の専門家である介護支援専門員が、それぞれの専門家へ利用者の代弁となる目標となる生活・必要な生活機能を提案してください。
<利用者の生活課題を専門家へ繋ぐことが介護支援専門員の業務です。>
福祉用具は介護者の経験による経験・発明による商品が多い。
すなわち福祉用具は、専門家の研究によるものだけではなく、多くの人の知恵を形にしたものである。
6:症例を通し、福祉用具の実際と目的
1.脳疾患の治療期間からケア期間に必要な福祉用具
【補装具の変化】
【移動用福祉用具の変化】
2.腰痛・リウマチなどで使用する福祉用具
3.高血圧・転倒の予防を配慮した生活支援のための福祉用具
8:今後のケアマネジメントに求められる自立支援の1考察
-介護支援専門員を取り巻く今後の制度変化から見えてくること-
2006年内閣府発表「介護保険制度見直し影響調査」より、要介護者の9割が持病を持ち、平均して3種類の持病を持っています。この持病の進行と要介護度悪化は相関関係があることが明確となり、持病の内容が①認知症②脳疾患③廃用症候群④高血圧などでした。要介護度がよくなった理由として、①自分でできる限り動く②治療(リハビリ含む)であり、介護保険法の基本原則の自立支援の重要性がクローズアップされるものでした。
また、平成20年度の医療制度改正などにより、①早期退院(在宅復帰・老人保健施設入所)②在宅療養(ターミナル含む)が今後さらに進んでいくと思われる。介護支援専門員の業務は、もともと介護保険法対象者である「老化に伴う疾患による要介護状態等」である方の生活課題をケアマネジメントし、自立支援するという、どちらかといえば慢性疾患によるケアが中心であったが、今後脳疾患など、医療機関による急性期治療が終了した早い段階で在宅支援を要することとなるでしょう。すなわち、治療とケアの共存したマネジメントが必要となります。例えば、「脳梗塞発症後1ヶ月半で退院し、在宅で生活しつつ、治療も進めたい」「大腿骨骨折後手術し、4週間で在宅生活しつつ、治療を進めたい」という亜急性期・回復期でのケアマネジメントが必要となってくると思われます。
これらより、1)ICFの「活動・参加」の向上を行うためには、日常動作(セルフケアを含む)を楽に安全にできるようにし、継続して行えるようにすること 2)亜急性期・回復期から慢性期の疾患・障害の変化と利用者の生活機能変化の時系列計画を立て、マネジメントすることが重要となる。現在のケアプランにも目標設定とその期間が記載されているが、この期間を意識しつつモニタリングしている介護支援専門員はどのくらいいるでしょうか。そのためには、医療との連携の充足が不可欠で、医療でのクリティカルパスなど治療計画を介護支援専門員も把握し、ケアマネジメントに取り入れる必要があります。また、日常動作を楽にするということは、人は日々の活動・参加に努力が必要なことは行わなくなることは、誰もが経験として理解できるでしょう。利用者も同様であり、活動・参加を楽に行えるようにするには、「リハビリで機能改善する」「住宅改修などで生活環境を改善する」もしくは、「福祉用具を利用し、楽に安全に行えるようにする」ことが考えられる。福祉用具は、多種多様な用具があることを理解し、介護保険適応用具のみで判断せず、利用者の生活課題に必要な機能補填・代償する用品を探し、利用してみることも大切です。
また、介護支援・予防支援の目的は、「自立支援」です。自立とは、利用者の「自助」「互助」「公助」を介護支援専門員がマネジメントする必要がある。同時に、人的介助から物的介助へ介助方法を移行することが、活動としての自立の手順です(例:訪問介護で歩行支援をする→歩行器を使用し自分で歩行する)。
福祉用具利用に関するケアマネジメントを今一度見直し、必要なタイミングで福祉用具を選定・適合・利用し、自立支援できることを祈ります。