「僕が感動した医介連携」-Vol.4

「僕が感動した医介連携」-Vol.4


「地域で出逢う医療人たちとの連携、協働、そして友情のなかにケアマネジメントのさらなる可能性を見る。僕が感動した医療・介護連携エピソード集」

著者:村瀬崇人

「go straight」 柴垣信介(理学療法士)

一言で言うと、今のままでは自宅で風呂に入れないからどうにかして欲しいということであった。

右大腿骨頸部骨折、左股関節骨頭壊死に対してそれぞれ手術済み。人工関節を使用している。右大腿は硬直が強くまっすぐと伸び切ってしまって屈曲すると鋭い痛みがある。独歩で動ける範囲は非常に限られている。

「環境面でも阻害が結構ありますね」

アセスメントシート、主治医意見書、家屋見取り図とにらめっこする僕に口を挟んだのは理学療法士だった。扱う言葉はやや専門性が高く論理的な話し方をする。人によれば難しく感じるかもしれない。だが、僕は彼のこういうところが好きだった。こだわりの強さは論旨の明解さによって高度な実践につながる。

―だが、よく見れば促進因子もそれなりにある。何よりこの意志の強さ、長年の独居で自分なりの生き方を貫いてきているなかに強みがたくさんある。活発な友人関係も十分に活用できそうだ。

彼に調子を合わせるようにして僕は切り返す。僕たちは、ICFを共有していた。

本人はデイサービスに通うことを断固として拒否していた。それでも前の人には強引に勧められたのだ、そうしないと入浴ができないと言われたのだと彼女はまだ怒っていた。以前の介護支援専門員や福祉用具事業者を力量不足であるとして自ら解約したらしい。「少し難しいタイプの人」と紹介者は僕に言った。

浴室には、横手すりを2本、縦手すりを1本取り付け、開き戸を折れ戸に変更して小さいシャワーチェアを置く。ベッドサイドと、トイレまでの動線に手すりを設置する。しばらくはシャワー浴だが、半年もあれば浴槽への出入りができる程度まで回復が見込める。

理学療法士は本人のADLを正確に測り、動作の確認を兼ねながら望ましい住環境を設計していく。手すりの位置や長さはセンチメートル単位にこだわり、月単位での予測とリハビリテーション計画を立案する。

買い物の支援は基本的に友人に頼めそうだ、トイレ、浴室の掃除は家事援助が必要になるかもしれない、再転倒を防ぐ課題の優先度は高い、と僕が原案検討をはじめると

「ゴールは1年でボランティア活動の再開、半年で、1人で入浴できる、浴槽の出入りの練習が終わったら、LSAをより自宅外に広げていくように取り組みます」

理学療法士だった。

life Space Assessment

生活空間の広がりか

僕は新しい言葉を教えてもらったことについて礼を言うと、その提案を採用した。

目標の設定から手段の検討、評価の基準まで彼の論旨は非常に明解だった。まっすぐ行ける。このケースは順調に自立支援ができる。僕たちには自信があった。

最初に会った時には少し気難しい顔をしていた利用者が言う。

お見事。一年ほどお世話になります、と。


著者:村瀬崇人
主任介護支援専門員、社会福祉士、精神保健福祉士
まごころステーションすくらむ 代表