「僕が感動した医介連携」-Vol.2

「僕が感動した医介連携」-Vol.2


「地域で出逢う医療人たちとの連携、協働、そして友情のなかにケアマネジメントのさらなる可能性を見る。僕が感動した医療・介護連携エピソード集」

著者:村瀬崇人  

「彼女は最初から近くにいた」喜田博美(薬剤師)

アセチロール、デルスパート、アズノール、デルモゾール、スチブロン

まるでフランス語会話のように聞こえるだろう?

僕は、軟膏の名前を適当に抑揚をつけて読みあげては、スタッフの笑いを誘っていた。外用薬の種類が増えても上手く使えていない。デイと訪問看護での対応に限定されていてはせっかくの薬もその効果を発揮しきれない。なかなか問題が解決しないものだから、思考がつい横道に逸れる。 

この時僕が、医師と訪問看護師と一緒に頭を悩ませていたのは、しつこい皮膚疾患だった。少し認知症があって排泄後の後処理が上手くできず、すぐに股ずれのようになる。排泄は毎日何度もあることだから、サービスを増やして対応するにも限界がある。

失禁や拭き残しによる汚染は尿路感染の原因となる。同居の夫が排泄後の後始末や外用薬の使用を手伝ってくれたらありがたいが、夫は昼間は仕事に出ている。それに排泄に関わるケアには少し抵抗があるようだった。

思い立って、普段はカウンターの中にいる彼女に声をかけてみる。一緒に行かないか?と

薬局の配達用車で現れた彼女は白衣を脱いでいた。少し印象が違った。

自宅にあった二段の棚を使って、外用薬のチューブやケースをレイアウトしていく。それぞれどう使うべきか、簡単な言葉で説明を書き足してくれる。頓服薬を最上段にセットして、最後に彼女は自分の名刺を棚に貼り付けた。分からなかったら電話してね、と。

こんなに楽しそうに利用者さんと話をする人だったのか。また少し、彼女の印象が変わった。

「まるで病院みたいだなあ」と夫が言う。本人が面白がって笑う。二人の間に、安堵したような空気が流れた。

チャンス到来。そう判断した僕は彼女にもう一つだけ仕事を頼んだ。

僕の意図をすぐに察してくれた彼女は、「簡単だよ」と夫に上手く話してくれる。外用薬の使用の指導に夫が応じてくれた。夫は照れ笑いで気恥ずかしさをごまかしながら、でも、意外なほどあっさりと、それを受け入れた。

後日、クリニックでサービス担当者会議を行う。もちろん、居宅療養管理指導の位置づけのために彼女にも来てもらった。いくつかの処方提案があった。看護師が使いやすく安価なリハビリパンツも探してきてくれた。気温が高くなる前にこの皮膚疾患は治しきりたい。短期目標の文言はすぐに決まった。

在宅での薬剤師の活躍が注目され多くの介護支援専門員にとって当たり前になるまで、もう少し時間が必要かもしれないと考える。でも、街を見渡せば、薬局は僕がこの仕事を始めるずっと前からたくさんあった。

そこに心強い味方がいると、ようやく僕が気づいただけだ。


著者:村瀬崇人
主任介護支援専門員、社会福祉士、精神保健福祉士
まごころステーションすくらむ 代表